困ったことは1つまで!@外来【患者力を高める ②】

健康と病気について

今回は「患者力を高める」シリーズの第2弾をお話していきたいと思います。
前回の記事はこちら→→”「えらい」「しんどい」は伝わらない“←←

話半分にしか聞いてくれない!本当に俺の話を理解したの?

あれだけしか話聞いてくれてないのにちゃんと診断できてるの?
出された薬、飲んでも大丈夫?


話を聞かない医師がいるのは残念ながら事実で、同じ医師として恥ずかしく思います。これは医師として患者さんにしっかり向き合っていないという点はもちろん、あとで述べるように話を十分聞かないということは結局診察の基本ができていないので、誤った診断にたどり着く可能性も非常に高くなってしまうということもあり、非常に危険です。
しかし、医師は色々な症状・病気で困っている多くの患者さんを診ており、時間に常に追われているということも知っておくもまた事実です。この時間と必要性のバランス・せめぎあいをしながら医師は日々過ごしています。

お互いに気持ちよくスムーズに、そして、ちゃんと話すべき話を伝えるということができると、より診断の精度が増し、医師に対する不信も生じずに済みますよね。

今回も、外来で医師とのコミュニケーションで困った経験のある全ての方に、ぜひ読んでほしい記事にしました。
ぜひ医師とのコミュニケーションエラーについては、前回の記事”「えらい」「しんどい」は伝わらない”も参考にして下さい。

症状の伝え方

さて、早速結論からお伝えします。ぜひ初診外来(初めて、あるいは久しぶりにその病院に行くこと)に行くことがある場合や、普段から通院しているけれども、前回の通院から別の症状が出てきた場合などには参考にして下さい。

今回お伝えすることはこの3つです。

困った症状は1つまで。多くても2つか3つには絞って。
・困った症状を伝えたら、症状を時間順で伝える
・その症状が、①よくなっている ②悪くなっている ③横ばい という情報を加える


これらを外来の待ち時間などにして頂くと、医師とのコミュニケーションによいだけではなく、思わぬ副産物がある場合があります。こちらは最後に説明をします。

それでは順に説明をしていきます。

困った症状は1つまで!多くても2つか3つに絞って。

せっかく病院に来たのだから、あれもこれも相談したい、そういう気持ちは分かります。
しかし、これはコミュニケーションエラーの元ですので、できれば一つに絞って、もし難しくても2つか3つに絞ってください。
注意点としては、いかにも関係がありそうだと思う症状については話の中で言ってもよいです。例を挙げると、「一番困っているのはお腹の痛みだけど、下痢も同時に始まって困っている」という場合です。同じ時期に複数の症状が起こり始めた時には、一つの病気が原因でそれらの症状が起きた可能性が高いからです。
逆に混乱を招く悪い例としては、「半年前から便秘ぎみで、一か月前から頭痛することが多くて、今は昨日から喉が痛くて困っている」といった話です。一番困っていることをまず一つ考えて決めてください。そして自分の中で関係があると思う内容を話してください。とはいえ、関係があるかどうかの判断は非常に難しいです。判断に迷うときには、一番困っている症状を一通り話した後で「関係があるか分かりませんが」とその症状も話してみましょう。

さて、一番困っている症状を絞って話をする方がよいということをお伝えしました。この理由を知るには、医師の思考回路をお伝えする必要があります。

医師の思考回路

医師はあなたが一番困っている症状(主訴と言います)から、考えられる病気を色々と想定します。仮に病気A, B, C…….Y, Zの26個の病気を考えたとします。

次にあなたからその症状がどういう経過を辿っているか、一緒に起こっている症状や、逆に起こっていない症状を聞きます。この段階で病気はA, B, C, Dまで絞ります。以外かもしれませんが、医師はあなたの話でかなり色々な病気の可能性を否定して、ごくわずかな病気の可能性に絞ることが出来ます。

次に診察をします。胸の音を聞いたり、お腹に触れたりします。これが終わると、病気はA、あるいはAかBくらいまで絞れています。この段階で必要に応じて検査を追加します。

検査をする時にはここまで絞っているということは意外かもしれません。しかしそれだけ、患者さんからお話を聞くというのは診断をする上で大事なことなのです。

一番困っている症状(主訴)から色々と考えを巡らせていることが分かって頂けたかと思います。
しかしここに、一番困っている症状がいくつもある場合を考えてみてください。
しっちゃかめっちゃかになりそうですよね。
もちろん、医師はこういう患者さんからの話でも頭の中でまとめ上げていくスキルが必要ですが、エラーは起こりやすいということは分かっていただけるかと思います。

時間順で伝える

次に大事なのが、時間順に症状を伝えるということです。
例えば

昨日の朝からお腹が痛くて、夜にはいったんよくなったけど、今朝には痛みがまたぶり返して、最初よりも強くなって我慢できない。


といった具合です。簡単ですね。
これが、

今お腹が痛くて我慢ができない。昨日の夕べは痛くなかった。昨日の朝も痛かった。



同じことを伝えていますが、後者の方が伝わりにくいということもわかっていただけたでしょうか。例えば痛みの程度は、昨日の朝と今朝とどちらが痛いのかいまいちわかりません。

さらに下痢の症状もあった場合はどうでしょうか。
今度は逆に時間の順をバラバラにした方からお伝えします。

今お腹が痛くて我慢ができない。昨日の夕べは痛くなかった。昨日の朝も痛かった。昨日の昼頃には何度も下痢をした。


これを時間順に並べてみると、

昨日の朝からお腹が痛くて、昼頃に下痢が何度も出てから痛み自体は夜にはよくなった。今朝には下痢自体は止まったけど痛みがまたぶり返して、痛みは最初よりも強くなってきて我慢できない。


となります。
後者の方がより下痢とお腹の痛みの関連性が見えてくる感じがありますね。

病気によって、時間経過は非常に異なっています。
患者さんの話を聞きながら、医師は頭の中で時間順に並び替えていく作業をしていますが、これもやっぱりバラバラに聞くよりも時間順で最初から伝えてもらえる方がエラーが起こる確率はぐっと減ります。

その症状はよくなっている?悪くなっている?横ばい?

ここまで意識して頂けただけで、私たちはより正確に・早く情報をキャッチすることができます。
それはコミュニケーションエラーを防ぎ、診断の正確さを高めることに繋がります。

最後に、ここも意識して話をするとさらに伝わりやすいということをお伝えします。これは単純で、

その症状がよくなっているのか、悪くなっているのか、あるいは横ばいなのかを伝えてください。

かなり単純な話ですが、段々と良くなっているのであれば、今はまだその症状があってもこれから良くなるのではないか?と予測することはできますし、どんどん悪くなっているのであれば、これから先良くなるだろうと楽観的に考えることは厳しいと判断できます。
では良くなったり悪くなったりする例ではどうでしょう。例えば上の例ではお腹の痛みは、最初痛みが起こってから、下痢をしてからよくなり、また悪くなって今が一番痛い、ということが患者さんの話から分かりました。すると、痛みには良くなったり悪くなったりと波があるようだが、全体的にはどんどん悪くなってきている、ということがわかります。このように波があるタイプの痛みでは、胃や腸の病気の可能性が高くなることが一般的です。このように症状の動きだけでも、この臓器の病気かもしれない、と予測ができることがあります。

思わぬ副産物

さて、これらのことをして頂くということは、今体に起こっている症状を自分の頭の中で一回整理をしていくという工程をして頂くということです。
この過程の副産物として、不安な気持ちが少し落ち着くということがあります。人は訳の分からないこと、理解できないことに対しては、実際以上に恐怖をすることがあります。ジェットコースターに人生で初めて乗るときは怖いものですが、乗ってしまえば意外に楽しかったという経験のある方もいると思います。

外来をしていて、色々な症状を次々に言われる方が来られることがあります。この方々の症状は様々ですが共通点は、不安がいっぱいなことです。今日昨日困ったことだけではなく、何年も前の症状や、家族・職場の悩みまでも混ざって話をされます。これは頭の中で色々な情報が混ざってしまって、余計に不安になっているのだろうなと思います。
そんな時、私は一つ一つの問題・症状をよりシンプルに、別々にお話を伺ってそれぞれに対してのアプローチをお示しします。時間はかかる方法ですが、下手に薬や無駄な治療をするよりも効果的に思うことがよくあります。

このことは人が”悩む”時にも同じことが言えます。このことについて、別途YouTubeでラジオ形式でお伝えしています。もし興味があれば、ぜひそちらも見ていただけると嬉しいです。

#7 悩みについて~導入編~ ◆内科医父さんのメンタル教室◇【PostPrimeキャンペーンコードあり 2021/11末まで→詳細は概要欄へ】

あれもこれも困った状態から、一つ一つを整理してみてください。すると、ある症状は実はもうよくなっていたり、この症状は前に検査してもらった時に異常はないと言われていたとか、不安が落ち着く情報を思い出すかもしれません。

もちろん、一人で整理がつかない!という方のためにも医師はいますので、ごちゃごちゃになって不安でたまらないという方は、遠慮せず受診ください。ただし、残念ながら誰しも話をちゃんと聞いて整理してくれる医師ばかりではないので、よいかかりつけ医をぜひ見つけてください(その内よいかかりつけ医の見つけ方についてもまとめていきたいと思います)。

まとめ

みなさんが外来で困った症状を話すとき、ぜひ意識してほしいことは

です。
これを取り入れるだけで、きっと医師とのコミュニケーションはよりスムーズになり、診断の精度も上がると思います。

最後に一言

もし患者さん自身が、訴えを一つにまとめれなかったり、時間を追って説明できない場合は、一緒に過ごされているご家族の方が、代わりにお話をして下さるのもよいと思います。

今回の【患者力を高める】話が、みなさんのお役に立てれば嬉しいです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。


※当サイトでは病気や健康に関する基本的な知識・考え方をお伝えしておりますが、一人一人の健康・病気に合致した正しい情報でない場合もあります。健康状態にご不安がある場合などは、信頼のできる医療機関を受診ください。

※参考文献:ティアニー先生の診断入門(第2版)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1673456/(患者さんから話を聞くことの重要性を示した論文)

画像元:Gerd AltmannによるPixabayからの画像

コメント

タイトルとURLをコピーしました