「貧血」と「鉄分」について

健康と病気について

みなさん、”貧血”と言ったら何を想像しますか?

①小学校の時に校長先生の話を聞いていたら気分が…
②立ち上がった時にめまいが起こった…
③最近疲れやすい…

これらの症状は一般に”貧血”と呼ばれることがあります。しかし、正確な医学用語でいう貧血はこれらと完全にイコール、というわけではありません。

医療者の言葉と、医療関係ではない方の言葉に乖離がある時があります。
ただ、この件については話しておいてなんですが、受診される際にはあまり気にしなくて大丈夫です。医師や看護師は話を伺いながら、”こういう意味で使っているんだな”と変換をするからです。そもそも一般の人と違う医学用語の方こそ、修正されるべきではないかなとも思ったりはします。

今回は、そんな貧血についての基本解説と、貧血の代表的な原因である鉄分の不足について、その対策を実際の食事方法など踏まえて解説していきます。最後まで読んでいただけると嬉しいです。

貧血って?

さて、医学における”貧血”は、『血液の中にある赤血球の数が少ない状態』を指します。
赤血球は体の中で酸素を運ぶ重要な役割があります。酸素が十分に届かないと、体の中のいろんな細胞たちがエネルギーを効率的に作ることが難しくなります。その結果、心臓などの重要な臓器に負担がかかり、例で挙げたような症状が起こることがあります。

ちなみに、例で挙げた①~③は貧血以外の原因で起こることもあります。
具体的な病名としては①起立性調節障害など ②起立性低血圧など ③心不全など多様な病気がこの文章からは想定されます。
①の起立性調節障害は特に子供の頃に起こることが多く、自律神経の異常による病気です。これは人によっては、学校に行くのも辛いほどになることがあります。しかしながら、具体的にこの検査をしたら確定診断というものがないため、医師によっては「特に異常はありませんでした」という一言で片づけてしまうため、親としては「サボりたいから嘘をついている」と解釈をしてしまい、子供に強く当たってしまう、という悪循環が起きることもあります。お子さんの声に耳を傾け、もし何も異常はないと言われても、自分の子供が苦しんでいる場合には、別の病院に行って話を聞いてもらうなど、対策をしてみてください。

話が脱線してしまいましたが、診療科としては、①~③のような症状で困られた場合、お子さんでしたら小児科、成人でしたら一般内科を受診頂ければよいと思います。

原因

貧血の原因として一番多いのはご存知、鉄分の不足です。
赤血球が酸素を運ぶという働きを説明しましたが、この働きの中核をなしているのが鉄です。化学が得意な方でしたらFe2+のイオンがO2-と可逆的に結合している、と思ってもらえれば分かりやすいかもしれません。

さて、貧血の原因は鉄不足以外にも多岐に渡ります。 鉄やビタミンなどの栄養が足りずに赤血球が作れない病気血液を作る工場”骨髄”の機能が悪くなったりがん化してしまう病気、赤血球が体の中で壊されたり、出血したりする病気などがあります。

また、赤血球の問題以外にも、貧血の背景に重要な疾患が隠れているケースもあります。
例えば女性でしたら子宮筋腫などの婦人科系の病気や、男女問わず胃や腸などにできる”がん”が隠れていることもあります。

このため、女性で貧血を言われた場合は婦人科に受診を(若い女性の方で婦人科には抵抗がある、という方は内科受診を先でもいいと思います)、男性の場合は内科に受診をして下さい。

ここでぜひ覚えておいていただきたいのは①貧血の原因の代表は鉄分の不足 ②鉄分の不足以外にも色んな原因で貧血は起こりうる です。
特に①のイメージが先行するあまり、②についてはあまり認知度が高くないと思いますので、ぜひこれを機に知っておいてもらえればと思います。

先ほどの子供で起こってくる症状や、裏に隠れている病気の可能性など、貧血は決して侮れない病気です。

症状

さて、上記のような原因によって、赤血球が少なくなり、酸素がそれぞれの臓器に十分届いていない、という状態が貧血の症状の原因となります。ですので、すぐに疲れてしまったり、少し動くと動悸がしたり、めまいがしたりといった症状が起きてくることは想像に難くないと思います。これらの症状は貧血に共通した症状です。

実は、貧血にはこの他にも色々な症状があります。
例えば鉄分が少ないタイプの貧血では、爪の形が変形したりすることもあります。この典型的な爪の変化を”spoon nail”と言います。もし気になった方は検索してみてください。
また子供で貧血になると、上で書いた症状の他に、発育・発達に障害を来したり、記憶力・認知力の低下を起こすこともあります。

では、貧血のある方がみんなこのような症状があるかというと、実はそうでもないというケースがあります。
それは、長期にわたって貧血があると体が慣れてしまうため、症状が出にくい、ということがあるためです。ご自身の症状で分からないものに関しては、血液検査で調べる他なかなか難しいのが現実だと思います。ですので、この面からも定期的な健康診断が大事だということが分かって頂けると思います。



鉄分の摂り方

続いて、貧血の原因として最も多い、鉄分の不足についてを食事の面から解説していきます。

主な食材

鉄分の多い食事を下に示します。 お肉・野菜、どちらにも鉄分は含まれますが、より吸収効率がよいのはお肉からの摂取です。ざっくり、多いものをお伝えすると、レバーや赤身のお肉、魚介、青菜類、大豆といったイメージです。

  • 乾燥青のり 77mg
  • 豚のレバー13mg
  • 鶏のレバー9mg
  • シジミ8.3mg
  • アカガイ5.0mg
  • 湯葉(生) 3.6mg
  • つまみ菜 3.3mg
  • 油揚げ 3.2mg

全て100gあたりの鉄分の目安
※※妊婦の方は注意点がありますので、下記を参考にして下さい

成人であれば、こういった食材で1日に鉄分量で8~10mg生理中や妊娠されている女性の場合は+5~10mg程度とるとよいとされています(年齢・性別によっても異なり、文献によっても異なっていますので幅をもって記載しています)。

ところでコレ、計算すると毎日の達成は難しいのでは?ということが分かるかと思います。
例えばみなさん、レバー100gでしたら食べれそうと思われるかもしれませんが、毎日は難しくないでしょうか?また、他の食材も食べはするけど、毎日意識するのは難しいというのが本音だと思います。私もそうです。
ですので、必要に応じて、鉄を含む保健用食品の摂取も合わせて行うといいと思います。具体的には、例えば牛乳やヨーグルト、これら自体には鉄分はあまり含まれていませんが、鉄分が後から配合された牛乳やヨーグルトって、最近スーパーでもよくみますよね。こういうものを普段の生活の中で合わせて摂ると楽に鉄分を補うことができます。
あるいは、料理用の鍋・フライパンやお茶を沸かす時のやかんを鉄製のものにする、などの工夫もいいと思います。この場合、重たい・管理がやや難しいというのが難点です。

食事に限らずどの健康法も100点を目指す必要はありません。実現可能な範囲で80点程度を目指して、それで実際には60点だってそれも合格点です♪逆にストレスを感じるような健康法はよくありませんので、ご注意ください。

お勧めの食べ方

鉄分はビタミンCと一緒に取ることで、より効率的に吸収ができるとされています。このため、ビタミンCの多い緑黄色野菜、果物、イモ類などと一緒に取ることがおススメです。

また、牛乳に含まれる成分にも鉄分の吸収を助ける役割の栄養素があります。ただし、先ほども触れたように牛乳自体に鉄分は微量しか含まれていませんので、もし積極的に鉄分を取りたい方は、鉄分の配合された牛乳を選ぶといいかと思います。

避けた方がいい食べ方

お勧めの食べ方があれば、その逆もあります。
日本茶や紅茶などタンニンが多く含まれるものを一緒に摂取すると、吸収が悪くなることが知られています。鉄不足で困られている方は、これらは時間を空けて摂取するようにするといいと思います。
また、反対に特に鉄不足で困ってはいないという方は、過度に気にしすぎる必要はないと思いますので、お茶とともにご飯を摂って頂ければと思います。健康の突き詰め過ぎは逆効果になってしまいますので、ご注意ください。

鉄分の摂り方の注意点

①鉄分補充用のサプリメントや処方薬について

特に若い女性の方は鉄不足にはなりやすく、常用されている方も少なくないと思います。ここで一つ注意をしたいのは、鉄分の摂りすぎです。食事から鉄分を摂り過ぎてしまうということはまず起こりませんが、薬であれば簡単に摂り過ぎになることがあります。

鉄分の摂り過ぎによる体の不調に”ヘモクロマトーシス”という病気があります。これは過剰な鉄が肝臓を傷めたり、皮膚を黒くしたり、糖尿病を発症したりする病気のことです。また、便秘や胃の不快感などの胃腸の障害が起こる方もおられます。ただしこちらは、サプリメントをとってすぐになる方もおられるので、一概に摂り過ぎの症状とも言い難いです。

”鉄の摂り過ぎ”対策についてですが、まずは本当に鉄の薬が必要な状態かを検査・診断を受ける必要があります。検査を受けたことはないけれども、”恐らく鉄が足りないのだろう”と考えて、慢性的に鉄のサプリメントをとられている方はぜひ一度病院を受診してください。貧血は鉄以外の原因もありますし、この後②で説明するような病気が隠れている可能性もあります。また病院で処方されている方も、定期的な血液検査を受けるようにしましょう。もしあまり検査をされていない方は、ぜひ主治医に一言検査をしてほしいとお伝えしてみてください。

②鉄分を摂っても貧血がよくならない場合

病院で鉄欠乏性貧血(鉄分の不足によって起こる貧血の名称)と言われて、十分量鉄の薬を飲んでもなお貧血が改善しない場合、下記のような病気が併発している可能性があります。

1. ピロリ菌感染

胃癌の原因としても有名なピロリ菌ですが、実は鉄の吸収を悪くすることでも知られています。成人の方で一度も胃カメラをしたことがないという方であれば、一度胃カメラをされることを推奨します。

2. (女性の場合)子宮筋腫などの婦人科疾患

こちらも、成人されて一度も婦人科で検査をされたことのない方は、ぜひ一度婦人科受診をお勧めします。

3.悪性疾患(がん)

私が初期研修医の時、指導医にこう教わったことがあります。「もし若い女性で鉄欠乏性貧血を診たら婦人科の病気を疑え。そして、男性や高齢女性で鉄欠乏性貧血を診たら、胃や腸の疾患、特に悪性疾患が隠れていないか疑え」。これは発生頻度の高いもの、重要度の高いものの代表例を、対象の人毎にまとめた言葉です。胃腸のがんでは病変からじわじわと出血をすることがあり、それによって鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。特に閉経後の女性や男性で”鉄欠乏性貧血”と診断された場合は、胃カメラや大腸カメラなどを受けることが推奨されます。

③妊婦さん

最後に、妊婦さんに関しての注意点です。
妊婦さんは少し多めに鉄分を摂ることをお勧めしましたが、食材の代表で”レバー”について、注意が必要です。鉄分自体は多めに摂った方がいいですが、レバーに含まれる”ビタミンAの過剰摂取”が問題となります。
特に妊娠初期(3か月くらい)までは、過剰なビタミンAは胎児への深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、鶏レバー100gあたりのビタミンAは14,000μgRAEくらいです。妊婦さんは2,700μgRAE/日までにビタミンAを留めることが推奨されており、レバーを100g食べてしまうとすぐに過剰摂取となってしまいます。また、レバー以外の代表例としては鰻なども有名です。

ぜひ妊娠された、あるいは妊娠を考えられている方は、摂らない方がいい食べ物や薬など、色んな注意点があるので、ぜひ予め確認をしておいてください。

よくある誤解とその対策

注意点のところでも少し触れましたが、今まで一度も血液検査はしたことがないけど、”貧血”の症状があるから貧血なのだろう、と思われている方が時々おられます。
繰り返しになりますが、一般に”貧血”の症状と思われているものは、貧血以外の病気まで含めて、色んな可能性があり、そしてその貧血自体にも色んな原因があります。これを自己判断だけで決め打ちしてしまうのは、とてもリスクが高いことでお勧めできません。

ぜひ、”貧血”の症状があると思われる場合は、医療機関を受診して、血液検査をしてみてください
私の患者さんで貧血があると思ってこられたら、実は甲状腺の病気だったという方や、心臓の病気だったという方などおられます。また、実際貧血があって自己流に色々工夫されていた方で検査をしたところ、婦人科の病気が見つかったという方もおられました。

当たり前の結論ではありますが、“貧血”の症状がある方はぜひ病院を受診ください
そして貧血と診断された場合も、その原因が何かはちゃんと検査を受けましょう。貧血の原因は血液検査だけで分からないことも往々にしてあります。ぜひ、主治医とよく相談をしてみてください。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。


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